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株の仕組みを世界一わかりやすく解説

株の仕組みを世界一わかりやすく解説

経営トップの視点から見えるリスクマネジメント【前編】

鳥居 正男/Masao Torii

仁木:私もさまざまな業界に携わってきましたが、製薬業界ほどステークホルダー間の利益相反がある業界は少ないように思います。たとえば、投資家や株主は売り上げを伸ばしてほしいが、国は医療財政の観点から継続的に薬価を引き下げている。患者さんはいい薬を出してほしいがそのためには膨大な研究開発費がかかる。その上、社会からは高い倫理性を求められる。対処しなければいけない経営課題やリスクが多い上、ステークホルダーからの期待に応えていく必要があるという、非常に舵取りが難しい業界だと感じています。

鳥居:たとえば、治療しないと2年で亡くなってしまったり、一生を車椅子で生活しなければならなかったりするような希少疾患があり、その治療や介護にかかる費用は約4〜5億円と試算されています。しかし、ある薬を使えば、それが2億円で治る。双方を比較してみると薬の価格は決して高くないのですが、国内メディアは「単価」が高いと否定的な論調で報道を繰り返すことがあります。もし価格を報道するのであれば、同時に患者さんや社会に対する恩恵なども全て説明していかなければいけない。これは医薬品の業界やメーカーの課題で、問題の根底にあるのは「イノベーション」についての説明が不足しているということです。

松下:原価と価値とは関係がないというお話は、とても共感しました。その一方で、日本企業では受け入れられづらい考え方だとも思いました。

松下 欣親/Yoshichika Matsushita

松下 欣親/Yoshichika Matsushita 有限責任監査法人トーマツ パートナー
監査業務や株式公開支援業務などの業務に従事。大手証券会社への出向を経て、現在、取締役会の実効性分析・評価やリスクアペタイトフレームワークの導入を含む、コーポレート・ガバナンスのための組織体制整備業務等を行っている。

鳥居:イノベーションの価値は「原価」では測ることはできません。たとえば、錠剤やカプセルの原価は高いものではありません。ただ、3万品目やって1品目しか成功しない薬なのですから、将来の新薬を創るための投資の原資を確保する必要がある。そうなると、どうやって価格を決めていけばいいのかという話になる。

岩村:イノベーションの重要性が認められないということは、世界的な問題だと感じています。重要性が認められなければ、現状維持でもいいということになりかねない。それでは成長することも難しい。

岩村 篤/Atsushi Iwamura

岩村 篤/Atsushi Iwamura 有限責任監査法人トーマツ パートナー リスクアドバイザリー事業本部長
2021年デロイト トーマツ グループ 執行役、リスクアドバイザリー ビジネスリーダー、有限責任監査法人トーマツ執行役およびデロイト トーマツ リスクサービス株式会社 代表取締役。上場会社の監査業務に関与後、グローバル展開するメディア企業や製造業向けにアドバイザリー業務を提供。近年は複数のグローバル企業に対し、デロイト トーマツ グループのサービス責任者として従事

鳥居:海外では、mRNAについて長年研究を続けてきた企業に対して、想像を絶する資金が投入されました。その結果、たった1年で市場にコロナワクチンが投入され、世界中で使われています。

岩村:日本法人とグローバルの考え方や風土の違いといったことで、組織の作り方などを変えるケースもあると思いますが、グローバルと日本といった観点で何か差を感じられることはありますか。

鳥居:以前は日本の特殊性が認識されており、日本だけ違うという点がかなりありました。しかし、今はそういったことは減って来ました。世界が近づき、小さくなっているように感じます。

岩村:グローバルで導入された仕組みは、日本でも導入していかなければならないし、グローバルで守らなければならないことは、日本でも守らなければならない。ある意味、世界は統一化され、同水準になりつつあるということでしょうか。そういった意味では、グローバルと日本との差がなくなってきているのでしょうね。

鳥居:グローバルで仕組みができる前に、日本の特殊性などを伝えて、それらを織り込むことができればいいのですが、本社に人を出すこともできない。人的リソース不足も要因の1つなのかもしれません。日本の意見を十分に伝えて全体の流れに影響できるコミュニケーション力を持つ人材が必要になっているのです。

松本 拓也/Takuya Matsumoto

松本 拓也/Takuya Matsumoto 有限責任監査法人トーマツ パートナー
シンクタンクにてコンサルティング業務に従事した後、有限責任監査法人トーマツに入社。監査業務の経験を経た後、現在は、グローバルリスクマネジメント/コンプライアンス体制構築を中心に、グループガバナンス再構築、危機管理体制構築、内部統制構築、内部監査等のアドバイザリーサービスを数多く手掛ける

松本:製薬業界におけるイノベーション、リスクテイクの必要性やそのための人材育成が必要であること、グローバルのマーケットがアメリカと中国が中心になっており、その2か国中心にニーズが形成されざるを得ない状況は、他のインダストリーにもとても参考になると思います。

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